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なぜか脱線しまくる優花に先に風呂に入るよう促し、俺は奏を部屋に運び込んだ。
ベッドにそっと寝かせ、上着の前だけ開けておき、静かに布団をかける。
奏「……ん」
陽向「……?」
奏「…………ょ」
陽向「奏……!?」
ころんと頭だけ左を向き、何か寝言を――と思った矢先、彼女の閉じられた両目から雫が顔の輪郭に沿って伝い、少しずつ枕を湿らせていく。
涙――?一体、奏は何の夢を見て……
奏「……ゃ、……っ」
陽向「……奏」
奏「……お、じぃ……ちゃん、……いか……なぃ……で……?」
陽向「!」
……そう、か。そうだよな。
舟雨さん――奏の爺さんが本土へ移り、入院してからまだ数ヶ月と経っていない。
明日美さんからのメールによる経過報告は続いてるが、それもここ1週間は届いていない。
その1週間前のメール内容は、舟雨さんの容態はあまり変化のないという事。ただ、翌日からのX線検査で分かるだろう……という話。
これは勿論、奏にも見せているし、彼女の気が済むまでケータイは渡している。
今までは順調に見えた内容が、ハタと届かなくなる。
……不安が積もってるのが普通。なのに、俺はそんな彼女に気を遣ってやれずにいた。
いや、奏は拒んだだろう。俺も、それを受け入れるだろう。
――けど、今回は俺がそれに気付いたのが、奏の涙を見た『今』だという事。
陽向「……ごめんな、奏」
奏「……だいじょ……ぶ、だよ……」
誰に言ってるのか、本当に聞こえてるのか、まったく分からない言葉。
どっちであっても、俺には歪んで聞こえる。そんな気がした……
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