第一話 【EARTH】

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優海は皿から焼き魚を箸で切り分け、食べながら言った。 「──だから、拓海君は科学の道に進んだ方が絶対にいいと思いますよ?」 「はあ…。両親が科学者ってだけで俺の道を決めないでくれ…。」 コップから水を飲みながら、拓海が応えた。 今、拓海は優海の家で夕食を摂っているところだ。メニューはいたって普通の和食。 優海は和食が好きらしく、ほぼ毎日和食を食べている。 拓海がテーブルにコップを置くのを見てから、優海はまた口を開いた。 「でも、少なからず拓海君にはお父さん達の血が流れているわけで、そういう道の方があってると思います。……私は。」 それを聞いて、拓海は溜め息をついた。 「科学者になるのは嫌じゃないよ。でも、親が科学者だからって、俺も科学者になりたいとは限らないだろ?」 「それはそうですけど……。」 優海は何か言いたそうだったが、そのままうつむいてしまった。 拓海はまた溜め息をついて、優海に言った。 「けど、」 優海は、拓海の声に顔をあげる。 「完全にならないと決めた訳じゃないよ。勉強も一応やってるし。その道に進むと決めたときは、優海も……ついて来るんだろ?その時のために、優海も勉強しときなよ。」 その言葉に優海は微笑んだ。 「はい!勉強します!…というか…拓海君、科学の勉強してたんですか?」 「あ、ああ。まあな。」 「通りで最近テストの点数が悪い……。」 「…優海……。」 その後、拓海がとぼとぼと歩いて自宅に帰ったのは言うまでもない。 しかし、優海は相変わらず笑顔だった。
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