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「さぁ、いこうか」
「うん」
少女は差し出された手を握った。骨ばった感触が男の手から伝わる。薄い皮膚の下を走る血管からは跳ねるような血流が感じられた。
あの薬は身体に悪いんじゃないかと少女は思う。だがそんなこといえなかった。
――もう一人は嫌だ。
そう思うとなにもいえない。
気がつくと男の手を強く握っていた。
「どうしたんだい?」
左右非対称の白髪に月光が当たり、男の相貌が闇に溶けた。赤いネクタイが流れる血を連想させる。
少女は小さく首を振る。
「そう……なにかあったらいうんだよ。君は大事なんだからね」
それは娘としてではない。男はそんな目で少女を見ない。
そして少女も気づいている。
――それはお気に入りの人形に対する大事と同じだ。人形であるなら、私はずっと……やっぱり一人なんだ。
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