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下界へと繋がる扉が開く。
階下から吹き上げた熱い空気が顔を撫でる。
季節は夏。
それなのに少女はすっぽりとフードを被り、歌い出す。
光源のない空間に歌声が反響して返ってくる。
――私の声。私の歌。寂しくない。私はきっと生きていける。一人でも大丈夫。
無言は闇を生む。そこには少女一人しかいない。ゆえに少女は歌い続ける。
自らの存在、生命を感じるため。自分の歌声と出会うため。
「その歌、聴かせてやろう。きっと喜ぶよ」
闇の底へ下りていきながら、男が笑う。
――誰のことだろう。その人はこの歌を知っている人だろうか。
歌いながらそう思う。男は心の声に反応するように、
「リリス――僕が探している人だ」
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