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「黙れ」
賑やか…というよりも騒がしかった教室の中がシン…と静まり返る。
その原因は転校生のたった一言だった。
「目障りだわ……暑苦しいから群がらないで、お猿さん達」
うっわー……
なんていうか…栗原って……
「イヤミな人だね」
僕は有紀の言葉に同意するように頷いた。
そのまま、なんとも言えないような空気で授業が始まった。
昼休みを迎えた時だ。
僕は鞄から姉さん特製の弁当…もとい、愛姉弁当を取り出して、有紀と鉄平と机を寄せ合っていた。
ちらっと栗原の方を見てみると、クラスで完全に浮いていてしかめっ面で腕を組んだまま黒板を睨んでいる。朝の出来事で誰も彼女に声をかけようとしない…というか、かけられないと言った方が正しいか……何組かの女子のグループが遠巻きに栗原を心配そうに見つめている。
しかし、声をかけたら何と罵倒されるか……
まぁ僕には関係ない……とは言いきれないが、今はヘンに絡まない方が吉だろう……そう思って弁当の包みを開けようとした時だ。
「ちょっと」
頭上から声。
しかも、今もっとも絡みたくないと思ったばかりの人物の声……
「な、なにか……?」
「付いて来て」
不機嫌そうな顔でそう言うと、強引に僕の手を掴んで、呆然と固まる有紀や鉄平を含め大勢の人に注目されながら教室を後にした。
どこまで連れ回すのか……そう思いながら内心ため息をついていると、階段の踊場で栗原は足を止め、僕から距離をとった。
「益規から聞いてると思うけど…」
ちなみに、益規(ますのり)ってのは父さんの名前だ……うん、壁のシミを数えるくらいどうでもいいね。
「私はべつにあんたのことを弟だなんて思ってないし…そんなつもりなんてないから、一緒に生活する上でただそれだけあんたに伝えたかっただけだから」
「は…はあ!?い、一緒に生活するっておま……てか、父さんの冗談じゃなかったのか……」
「…なにごちゃごちゃ言ってるのよ。つまり、そういうことだから……私に変な気を起こしたら殺すわよ」
最後に物騒な一言を残して栗原は僕の前から去っていった。
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