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やれやれ、刺されたせいで頭までおかしくなったようだ。精神科精神科……
「これを見てくれ」
父さんは病衣の中に手を突っ込んで、胸から一枚の写真を取り出し、僕に差し出した。
とりあえず、何故か写真から湯気がたっていてばっちいから僕は写真を汚物を扱うように受け取り、シーツにこすりつけてから眺めることにした。
……父さんが涙目だが気にしない。
「……えええええ!?」
思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
写真の中には五人の女性が映っていた。
みんな美人でその中には愛しの姉さ――――姉さん!?
裏を見ると、日付が記されていた。撮ってからまだ一カ月も経っていない最近のようだ。
「……どういうことなの父さん」
「晶……この中からお前の姉を決めてもらう」
「……なに言っているんだよ父さん。僕の姉は澄香姉さんだけだよ」
「本当はな、お前の姉は澄香じゃないかもしれないんだ」
「……父さん、自分がどれだけ非道いこと言ってるか分かってる?いくら父さんでも、それ以上は許さないよ」
物心つく前から澄香姉さんと一緒に暮らして、育っていったんだ。
父さんは姉さんを家族と思ってないのか…?
「まあまあ、その写真よく見てみろよ」
「よく見ろって…」
父さんにそう言われ、僕は注意深く写真を見つめた。
「…な?みんなイイおっぱいしてるだろ?」
「一度、天に召されるか?」
低い声で言うと、父さんがブルブル震えだした。
「……父さん。こんな馬鹿げた話…信じる気は毛頭ないけど、せめて理由だけは教えてよ……そうじゃないと納得できない」
「……」
父さんは一瞬の間を挟んだ後――
「……てへてへ、秘密でちゅ」
おぞましいほどの茶目っ気たっぷりな仕草で誤魔化した。
どうしよう、■したい。
今、すごく父さんを■したい。
僕は再び果物ナイフに手を伸ばした。
「――まあ、お前にもその内わかる時が……!む、息子よ………そのナイフでナニを――ひいぃぃ!?看護師さん!?ヘルプヘルプヘルプヘルプヘルプヘルプヘルプヘルプヘルプヘルプヘルプヘルプ」
父さんが凄いスピードでナースコールのボタンを連打する。
「息子が乱心中ーーー!!」
父さんを刺殺する前に僕は血相を変えた看護師さんに捕まった。
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