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「お花見に行こー!おー!」
呼び鈴を鳴らして僕を玄関まで召喚したソイツは、そんなことを宣った。開口一番。前置きなく。
「……はぁ、まあ、いいけど」
そして、そんな突発的状況にも関わらずこうして対応できるのは、相手が慣れ親しんだやつだからなんだろう。
「むむ……なんか冷めた反応っ。せっかく、可愛い幼なじみが誘いに来てあげたのに!普通、もっとテンション上がるよ!?」
「いや、確かに由奈は可愛いと思うけど。ほら、僕からしたら見慣れた顔だし」
「やぁん、もー、可愛いだなんて!るーくんってばぁ!」
自分で言っておいて、身体をクネクネさせている。つかコイツ、僕の台詞の後半部分聞かなかったことにしたな、今。
それにしても、仮にも異性から『可愛い』と言われて照れた素振りの一つも見せやしない。ちょっと期待しただけに残念……なんだけど、よく考えたら、由奈だって僕が花見の誘いにテンション上がるのを期待してたんだから、お互い様かもしれない。
……まあ実は、結構テンション上がってるけどね。そりゃ、だって……好きな女の子からお誘いを受けたら、誰でもテンション上がるでしょ。
ただまぁ、僕たちの関係――幼なじみの間柄には、そんなお誘い日常茶飯事で。その上がり具合を、表に出しにくいって話。
「で、お花見はいいけど……いつ行くの?」
まぁ、無難なのは明日かな。日曜日だし、天気も予報では晴れだったし。来週まで伸ばすと、満開を逃しそうだし。
「え?今日だよ?今から」
「……え?」
いくらなんでも、急すぎじゃないだろうか。っていうか、
「いやほら、準備とかあるでしょ。今からってそんな、いきなり言われても」
うん。僕の主張は、客観視しても全うなものだ。準備もなにもなく、思い付きだけで集まって遊びに行けるのは小学生くらいまでで。僕らくらいの年齢――とはいってもまだ高校二年生だけど――にもなると、なかなかそうはいかない。
なのになんだって、
「ちっちっち。分かってないなぁ、るーくんは」
こんな風に、呆れたような言葉をかけられなきゃいけないんだろう。ムカつくんだが。ご丁寧に、人差し指を左右に振ってるし。
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