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「るーくん、眠いの?」
ひょいっと僕の顔を覗き込みながら、由奈が尋ねてきた。
「ん……」
曖昧に頷く。一緒にいる由奈への申し訳なさもありながら、眠いのも事実で。
いい天気で、風が気持ちよくて、耳を打つ自然の音が心地よくて。それに加えて、由奈のお弁当による満腹感まであるもんだから……どうしても眠気を感じてしまう。
「食べたら眠くなるって、るーくん、赤ちゃんみたいだねっ」
「…………」
反論してやろうと思ったけど、由奈の表情があまりに無邪気だから沈黙するのに留めた。あれはからかってるわけじゃなくて、素直に思ったことを言っただけなんだろう。
「じゃあ、そんなるーくんに……はいっ」
小気味のいい声に傾注すると、由奈が女の子座りして太ももを叩いているのが目に入った。……これは、あれか。
「ほーら、膝まくらー」
何が嬉しいのかぴっかぴかの笑顔で、思った通りのことを進めてくる。
「むぅ……」
どうしたものか。いくら幼なじみとはいえ、膝まくらはしてもらったことがない。少し、いや結構、恥ずかしさを感じるんだけど……
「ま、いいか」
呟いて、頭を太ももに委ねた。……おぉ、柔らかい。
「わ……るーくんが、素直だ」
驚いた声が降ってくる。確かに、僕自身も軽く驚くくらい、素直にこの体勢に移行した。眠気で、頭が緩やかになっているのかもしれない。
目を閉じる。柔らかな日差しを瞼に感じながら、けれど、確かな暗闇が微睡みを呼ぶ。
「るーくんるーくんっ」
「……なに?」
忍び寄ってくる睡魔のせいで、返事をするのが億劫に感じる。
「るーくんの寝顔、観察してていい?」
「……嫌って言ってもそうするんでしょ」
「うんっ」
「じゃあ、訊かないでくれよ……」
寝にくくなるじゃないか。
今からでも起き上がろうかと思ったけど、手足が重い。身体はすでに、眠るモードに切り替わってるらしい。
「るーくんるーくんっ」
「今度はなに」
身体の重さに引きずられるように、意識も沈んでいく。言葉は脳でなくて、脊椎の反射で出ているんじゃないかと思うくらい、考えなしに口から出ていく。
「私たちって、幼なじみだよね?」
「え?うん……そうだろうね」
一瞬、意識が冴えかけた。僕らの間柄についての話は、僕の悩みの種だったから、脳が反応したんだろう。
けれど直後には、やっぱり眠りに傾いていく。抗いがたい睡魔。恐るべし、本能。
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