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だから、何?
すぐには本題に入ろうとしない、まどろっこしい言い方に苛立ちを憶えそうになる。
私は君と世間話をする気はまったくないのだよ。
手短に用件だけを伝えるというすべを、是が非でも身につけていただきたいものだ。
めいっぱいの毒づきは心の中だけにとどめて、
「それで?」
白々しいくらいの笑顔を貼りつけながら、話を促す。
「迷惑じゃなかったら、連絡先とか訊いてもいいですか?」
言いながら、砂川くんはジーンズの後ろポケットから携帯を取りだす。
最初からそう言え。
いちいち手間のかかるやつめ。
持っていたバッグに手を忍ばせて、一瞬だけためらう素振りを見せる。
いや、演技などではない。
本気で戸惑ったのだ。
連絡先を訊かれたことに、じゃない。
今までに合コンに参加して、社交辞令のひとつのように連絡先を訊いてきた人なら何人もいたから、こういう光景には慣れもしている。
そうじゃなくて。
見るからに純情そうな男子が私の今抱えているものを知ったら、どんな顔を向けるのだろう、と。
「いいですよ」
一瞬だけあった迷いをすぐにかき消して、連絡先を交換しあったのは、きっと、私自身のためだ。
苦しいだけの“現状”から少しでも抜けだせるなら、相手なんて誰でもよかった。
たまたま、砂川くんだったということにすぎない。
ただ、彼にすがりたかったのかもしれない。
たとえ、彼を利用するためだけだったとしても。
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