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「ねえ、聞いてよ」
双方ともに同じ講義をとっているマーケティング論で、砂川くんに出会った合コンの時以来、初めて由梨と顔を合わせた時だった。
学内でもかなり大きな講義室で、並んでいる机は階段形式になっている。
必修でもあるので受講している学生は多く、壇上の教授もマイクを使いながら講義を進めている。
マイクを通した教授の声の大きさにも負けないくらい、由梨の声は弾んでいた。
この声の明るさ加減、絶対に何かあったに違いない。
確信する。
私はあの合コンを気分が優れないとかと適当に理由をつけて、お開きになるや否や、由梨とは居酒屋の前で別れた。
由梨はその後に続く二次会にそのまま流れたのだろう。
まさか、そこで何か思わぬハプニングがあったのだろうか。
いつもはチャンスをものにできない由梨に俄然、興味が沸く。
由梨は大事な話はメールで伝えずに、直接会って伝えたがる性分だというのは、2年間の友人関係をやっているうちに徐々に知りえた。
だから、こうやって会うまでもったいつけていたに違いない。
マーケティングの基本はヒト、モノ、カネ云々……と教授が話す退屈でしかない講義なんかより、由梨の話を聞くほうがよっぽど心惹かれる。
「何? どうしたの?」
「実はね」
こほんと咳払いを挟む由梨をもどかしく思いながら、早く続きを、と急かしたくなるのをこらえる。
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