プロローグ

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プロローグ

降り続く雨はまだ止まない。 パシャパシャと水を蹴る自分の足音と荒い息遣いだけが夜の静かな道に響く。 水を含んで重たくなったスニーカーが気持ち悪い。 傘を忘れて駆け出したから、肌に張り付くシャツは冷たく、私の体温を奪っていく。 「っくしゅん!」 思わずくしゃみが出た。 きっと夏風邪を引くだろう。 『ばかだなあ、こんなに濡れて』 呆れたように笑う彼の姿が目に浮かぶようだ。 全部全部、彼のせいなのに。 向かう先はひとつ。 彼のいる、あの場所へ。 全部終わったら文句を沢山言って困らせてやるんだ。 『一体誰のせいだと思ってるの?』 なんて、いつもみたいに軽口を叩いて。
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