8人が本棚に入れています
本棚に追加
「かっこいいって聞こえたし、よっぽど彼女が自慢したかったか、勝手を知らない1年かな?」
背景を考えれば、明日香の言葉にも頷ける。
「いいなあ、そんな自慢したいくらいの彼氏。私も欲しいや」
立ち話の振りをしながらきゃあきゃあと正門までの道をせき止めている女子達を掻き分ければ、やっと正門が見えた。
「椎果」
ふう、と一呼吸置いた瞬間名前を呼ばれ、固まった。
「…………へ?」
聞き覚えのある男性の声に戸惑う。
きっともう、会えるわけがないと思っていたのに。
「ごめん、これ返そうと思って来ちゃった」
雨宮さんは自分が地味に注目を集めていることを自覚していたのだろう、少しぎこちなく笑いながら顔の横でこれこれ、と言わんばかりに私の折りたたみ傘を振る。
そういえば彼の弟さんが同じ高校だと言っていたことを思い出した。
「そういうことね」
私と同様、一瞬面食らった顔をした明日香だったが、彼女も彼と昨日の傘の件を思い出したのだろう。
納得した表情を浮かべ
「椎果、そしたら私お邪魔になるし部室行っちゃうから!
またね!後で詳しく聞くからね!」
と、私に手を振って先に正門横の部室ある棟へ駆け出していった。
「えっ待って!」
正門に一人取り残されると、妙に静かな背後からの視線が気になる。
「あの子が彼女かな?」
「えー、よく見えないよ」
誰かが囁いた詮索するような小さな声。
私の顔を見てみようという好奇心の視線が痛い。
こういうのって女子校の方が色濃く出るイメージだったけれど、共学でも地味にあるんだな。
その空気を察してか、彼も私の背後にちらりと視線を送る。
雨宮さんはちょっと苦笑いをして
「行こっか」
と一言だけ言うと、雨宮さんはさり気なく正門側に立って私を女子の目線から少し遠ざけてくれる。
私達は少し早足で歩き始めた。
最初のコメントを投稿しよう!