傘が連れてきた恋

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傘が連れてきた恋

「っくしゅん!」 ホームルームの前、教室の片隅でぶるりと身体がふるえると同時に思わずくしゃみが出た。 「なあに、椎果。 風邪でも引いたの?」 心配そうに私の顔を覗き込む、丸くて大きな目。 親友の明日香だ。 「うー、大丈夫……。 昨日雨に濡れちゃって、多分軽い風邪」 ずび、と鼻をすする私に、明日香は怪訝そうな顔をする。 「あれ?椎果昨日傘さして帰ってなかった? 可愛い折りたたみ買った〜って言って」 そう、昨日は傘を持っていた。 軽量で日傘にも兼用できる、大好きな水色ベースの小花柄が可愛い、気分の上がる折りたたみ傘。 梅雨入り前の5月の頭に買って、いつ使えるだろうと雨が降る日を密かに楽しみにしていたのだ。 「うん。早く使いたかったもん。さして帰ったよ」 じゃあなんで、とでも言いたげな明日香の顔を見ながら、私は昨日の出来事を反芻する。 浮かれたように昨日見せびらかしていたあの傘を使わなかった(正確には使えなかった)のには、それなりの理由があった。 「いや、それがね……」
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