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彼はというと、突然の私の提案に面食らったような驚きの表情で目を丸くして、それからほんの少し口元を緩めて笑った。
なんだ、笑ったらただの好青年だ。
「ありがとう。
見ての通りちょっと困ってたんだ」
ふんわりと柔らかく人懐こいその表情に、少しだけ私の緊張が解ける。
何となく、いい人そうで良かった。
そんなことを思いながら、軒下まで近づいて彼の方へ傘を差し出すと、彼はぺこりと小さく頭を下げて、フードを外しながら私の傘に入ってきた。
「天気予報外れちゃいましたね」
くるんと天然なのかセットしたのか、ふんわりした彼の髪が雨に濡れている。なんだか少し冷たそうだ。
歩き出すと、ぽたりと雫が1粒落ちた。
「ほんとにね」
筋の通った綺麗な鼻の先が、つんと立ってほんのり赤くなっている。
「こんな所でどうしたんですか?」
「あぁ、俺今大学生でね。丁度そこの学内でレポート書いて帰るところで降られちゃってさ。自分のパソコン持ってきてたから、濡れる訳にはいかなかったんだよ」
「この辺、近くにふらっと入れるお店も無いから不便ですよね」
「そうそう。それに今日はこの後寄るところもあったし」
形のいい唇が、ため息混じりに呟く。
透き通るようなこげ茶色の瞳が伏せられ、長い睫毛が揺れた。
「小雨になったら諦めて走るか、とか思ってた」
彼の喉仏が、話す度に上下する。
この人、思ってたより綺麗。
そんなことを考えていたら、自分が彼のことを見てばかりいることに気づいてしまった。
同じクラスの男子とは違う、落ち着いた雰囲気や服装。男性らしいけど綺麗な顔立ち。
好みなんてよく分からないけど、彼はかっこいい部類の男性だと思う。
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