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あ、また。
校庭でも中庭でも、窓際の廊下であれば、そこに誰がいるかがすぐに分かるつくりの校舎。
ちょうど俺は、中庭の真上を見下ろせる廊下を歩いていた。
「入学したときから好きでした。良かったら、付き合ってくれませんか?」
そのくせこの学校では、丸見えの中庭が告白の穴場だったりするのだ。
見られて恥ずかしい、とは思わないが。
中庭への呼び出しだけで全てが分かられてしまうのは、味気ない気がする。
そんな感想を抱くのも、今年度になってすでに10回を超えた。
「ごめんなさい」
告白と分かっていながらその場を見下ろしていたのは、彼女のこの台詞を聞くためだった。
ようやく桜が咲いた季節。
都会じゃ花見のシーズンも過ぎてしまっただろう季節。
ムード満点な中庭で、彼女と見知らぬ男子生徒は佇む。
「ダメ、ですか」
「ごめんなさい、受験勉強もあるし…」
彼女は困ったように申し訳なさそうに、表情を崩す。
「―――」
数秒見つめ合った後、悲しげに目線をそらした彼女を見た男子生徒は、諦めたように微笑んだ。
「…友達から、とかもダメですか?」
桜をバックにした彼女はさぞや美しく、絵になるんだろう。
年下らしき男子生徒は寂しげながらも顔は赤い。
「――ありがとう。友達、ね」
ふわり、桜よりも美しく笑んだ彼女に、男子生徒は力強く頷いた。
「……」
その後何やら男子生徒が彼女に誘いをかけていたが、俺はここで中庭から離れた。
「……」
小さく小さくついたため息は、俺以外の誰にも聞こえない。
「―――」
彼女が男子生徒の告白を蹴ることは分かっていた。
彼女の笑みが本物じゃないことくらい知っていた。
あいつは対価のないことはしない。
あの笑みは円滑な人間関係のための計算だ。
分かってる。
それなのに、俺は。
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