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何回目かも分からないあいつの告白シーンに、俺は、一体なにを考えた?
「か、河原くん」
「、」
ぐるぐると思考を巡らすのを遮るように、突然後ろから声をかけられる。
ああ、もうどうでもいい。
遮られた思考は脳内のゴミ箱に投げやった。
「…なに?」
振り返れば、クラスメートの女子が1人。
あいつみたいにクラスで目立つ生徒ではないが、男子からは何気に人気のあるやつだ。
揃えた前髪と黒縁の眼鏡がこのくらい似合う女子も、そうそういない。
「えと…つ、次って体育だったよねっ?」
「え、」
普段は落ち着いた静かなやつなだけに、思いもよらない質問に即答は出来なかった。
一瞬だけ目があって、とりあえず肯定を示す。
「――おう」
「あ…ありがとう!」
よほど焦っていたのか、答えを聞くなり背を翻して走り去った背中は、すぐに見えなくなった。
「ジャージでも忘れたか…?」
「うわ河原、お前って実はバカ?」
至極当然な俺の結論をぶった切ったのは、例によって。
「相変わらず女心は分からず屋なんだから」
「佐倉、お前には言われたくない」
教室と廊下をつなぐ入り口でバカにしたように笑う、佐倉 麻生 さくら まお だった。
「んなっ!」
たまたま佐倉のクラスの前で呼び止められたのが悪い。
そして佐倉はあいつの親友なんだから、それこそ運の尽きだ。
「河原!それはオレの威信に関わる重大な問題!つかお前より女心のくめない鈍感ヤローがいるかよっ」
「そこまで言われる筋合いはねーよ」
「あるね」
やけに自信満々に言ってのけた佐倉を面倒だから無視をして、俺はようやく目的地へと歩き出そうとする。
「河原ー、無視かよっ」
「うるさい」
騒ぐ相手にかまってやる義理はない。
「どーせ屋上だろ、オレも行くわ」
「―――」
目的地を言い当てられたのには驚いてないが、屋上に佐倉がついて来る事実に表情が曇った。
「春も来るだろうしな」
春。親友の佐倉は相沢をそう呼ぶ唯一の人間。
「…うるさい」
そして、まるで俺があいつのために屋上に行くような佐倉の台詞に、眉間のシワは深くなるばかりだった。
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