4人が本棚に入れています
本棚に追加
都会から一歩遅れて春らしくなってきた最近。
途中から数えることすら止めてしまったから、もう何回目なんて分からない。
私のこの顔や体は、男女ともにウケがいいのは事実だ。特に男子。
先ほども恒例の中庭への呼び出しを、「友達」という体のいい言い訳で流したばかりだ。
ホント、私って性格悪いわね。
口には出さずに、心でため息をつく。
「相沢さん、こんにちは!」
早足に廊下を歩けば、後輩でも同級生でも挨拶をしながらこちらを振り返る。
「……」
こっちからの挨拶は返さないかわりに、慣れた営業用の笑顔で頭を軽くさげた。
きゃあ、と黄色い声は後輩女子生徒のものだろう。
「わっ」
「きゃっ」
その黄色い声に気を取られていたのか、急に廊下を曲がってきた生徒とぶつかってしまった。
それでも双方転ぶことはなかった。
「…ごめんなさい、ケガしてない?」
髪を直しながら生徒を見れば、私と似たような背丈の女の子だった。
艶のある肩にかかる黒い髪。
揃えた前髪と伊達にも見える黒縁眼鏡。
なんだ。あいつのクラスメートじゃないか。
確か、名前は瀬名 香織。
「あ…相沢さん、ごめんなさいっ!」
「ううん、私がぼうっとしちゃってたから。ごめんね」
大人しい雰囲気をまといながら顔が幼いから、男子が守りたい女の子、という感じか。
「いえっ、…その、スイマセン、次は気をつけますっ、…じゃあ!」
「あ―、」
ほのかに頬が赤らんでいた相手は、お辞儀をしたかと思えば、ほとんど目を合わせないまま駆け出してしまった。
中途半端に頷いた私は、ぽかん、としばし彼女の後ろ姿を見送る。
「―――」
さては。
思いついた理由に、私はすぐに廊下を曲がった。
「やっぱり、ね」
その廊下の奥。
方向からすれば、屋上へ続く階段を目指してるんだろう。
遠くにいたって、他の生徒の頭1つ分抜きん出ているから一目瞭然だった。
私の視界に映っている、瀬名が頬を赤くしていた理由。
まばらな生徒に紛れて、ゲラゲラと笑う私の悪友と、あいつの背中があった。
最初のコメントを投稿しよう!