桜の季節。

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都会から一歩遅れて春らしくなってきた最近。 途中から数えることすら止めてしまったから、もう何回目なんて分からない。 私のこの顔や体は、男女ともにウケがいいのは事実だ。特に男子。 先ほども恒例の中庭への呼び出しを、「友達」という体のいい言い訳で流したばかりだ。 ホント、私って性格悪いわね。 口には出さずに、心でため息をつく。 「相沢さん、こんにちは!」 早足に廊下を歩けば、後輩でも同級生でも挨拶をしながらこちらを振り返る。 「……」 こっちからの挨拶は返さないかわりに、慣れた営業用の笑顔で頭を軽くさげた。 きゃあ、と黄色い声は後輩女子生徒のものだろう。 「わっ」 「きゃっ」 その黄色い声に気を取られていたのか、急に廊下を曲がってきた生徒とぶつかってしまった。 それでも双方転ぶことはなかった。 「…ごめんなさい、ケガしてない?」 髪を直しながら生徒を見れば、私と似たような背丈の女の子だった。 艶のある肩にかかる黒い髪。 揃えた前髪と伊達にも見える黒縁眼鏡。 なんだ。あいつのクラスメートじゃないか。 確か、名前は瀬名 香織。 「あ…相沢さん、ごめんなさいっ!」 「ううん、私がぼうっとしちゃってたから。ごめんね」 大人しい雰囲気をまといながら顔が幼いから、男子が守りたい女の子、という感じか。 「いえっ、…その、スイマセン、次は気をつけますっ、…じゃあ!」 「あ―、」 ほのかに頬が赤らんでいた相手は、お辞儀をしたかと思えば、ほとんど目を合わせないまま駆け出してしまった。 中途半端に頷いた私は、ぽかん、としばし彼女の後ろ姿を見送る。 「―――」 さては。 思いついた理由に、私はすぐに廊下を曲がった。 「やっぱり、ね」 その廊下の奥。 方向からすれば、屋上へ続く階段を目指してるんだろう。 遠くにいたって、他の生徒の頭1つ分抜きん出ているから一目瞭然だった。 私の視界に映っている、瀬名が頬を赤くしていた理由。 まばらな生徒に紛れて、ゲラゲラと笑う私の悪友と、あいつの背中があった。
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