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もちろん、瀬名があいつを気にしているのは前から知っていた。
まあ、知らなくても理由はあいつ以外にないだろう。
河原 夏生。
平均より高い背丈に、程よくついた筋肉。
中学は野球、高校は陸上、と外の部活だったからか、短い髪は太陽のせいで茶色くなっている。
見た目も良ければ勉強も出来る。
全国模試では、私以外に名前のあがるやつなんか、この片田舎にはあいつしかいない。
チャラいわけでもないし、極端に人を避けたりもしない。
円滑な人間関係。
誰よりも完璧に、それでいて穏やかな学校生活をおくろうとするやつ。
そう
「―――私と一緒」
曲がり角で立ち止まったまま呟いた言葉は、同族意識でも恋愛感情でも友情でもないと思う。
自嘲。
それに滲む苦い感情。
あいつより模試の順位はいいはずだが、その感情の固有名詞は知らない。
「さ、て。そんなことより、お弁当お弁当」
気を取り直してクラスに弁当箱を取りに向かう。
私が告白を受けた日に限って、あいつは絶対屋上にいる。
最近は悪友の麻生も一緒だ。
何故いるかは、聞いてない。
私の場合、告白を蹴った日は屋上で昼休みを過ごすのが鉄則だ。
クラスの質問や冷やかし、おだてなどに巻き込まれたくないから。
なんで付き合わないの?
付き合っちゃえば良かったのに、もったいない!
振るなんて何様のつもりなのさ?
こんな美人が独り身なんてねー!
「―――」
じゃああんたらは好きでもないやつとホイホイ付き合うのか?
付き合ったら付き合ったで、好きじゃないなら付き合わなければ良かったのにー、とか無責任に吐くくせに。
「やだ、眉間にシワなんてあいつみたいじゃない。やめやめ」
過去は過去。
割り切りの良さも、今までの経験で身に付けている。
何気なしに廊下から外を見たら、強く吹いた風が薄桃色になっていた。
ああ、桜の季節も終わってしまうのかしら。
夏は苦手なのに、と勝手に愚痴ながら、私は屋上へと向かっていった。
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