プロローグ

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 カチカチと、音が鳴る。  僕の目の前には、扉がある。長い廊下にそれはあって、僕はその前でドアノブを回している。  廊下には、他にも扉はあった。それぞれ既に開いていて、扉の先には友達や、家族や、恋人がいた。そういった人物の他にも、学校や、家などの場所。はたまた、数学や、今まで読んできた本などの知識もそこにはあった。  どれもすでに、扉は開いている。  ただ、僕の前にある扉だけが、開いていない。僕はその扉のドアノブを、何度も回している。  この扉の鍵はもう持っている。ただ、この扉には鍵穴がない。僕は絶対に使われないであろうその鍵を糸につるし、首に提げている。見えないように、服の中にしまい込んで、だ。  この扉は、開かない訳ではない。鍵がかかっているのなら、僕が鍵を開ければ良い。でもこの扉には鍵はない。つまり、鍵はかかっていないのだ。  この扉は開いている。  だけども、僕は扉を開けないでいた。この先に何があるのか。人並みだと自負している知識欲が、この時だけ妙に騒ぎ立てている。しかし同時に、この扉を開けてはいけない。そう考えてしまう。なんだか、開けるのが恐いのだ。  まるで、絶叫マシーンのような感覚。安全な危険物だと分かっているからあれには乗れるけど、この扉は安全か分からない。  だから、僕はそのドアノブを回している。  周りに誰もいないのを確認して、こっそり回す。回し続ける。右手で丸い感触を確かめ、しっかりと握って右にひねる。すると、僕の首の後ろを何かがはい上るのだ。その何かは、すぐに消えていく。そのまま押してしまいたい衝動に駆られるが、結局ゆっくりと手を戻すのだ。そして、また回す。  カチカチと、回す。  カチカチ、と。
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