七月の花嫁

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初夏の香りが鼻をくすぐる それは新緑眩しいとある夏の日。 『わー、素敵!』 『えぇ、ほんとに 見違えたわ』 『きっと花婿さんも 驚いてくれますよ』 「……」 布を降ろされた鏡には 未だかつて見たことのない 綺麗な花嫁が写っていた。 「う、わぁああ…」 あたしの名前は齋藤詩織。 七年交際していた彼と 訳あって今日 結婚式を挙げることになっていた。 試着の時とは違い 今日は髪型も化粧も バッチリ決まっている。 鏡に写っているのが まるで別人ではないかと疑ってしまう程の出来だった。 『さぁ行きましょう 花婿がお待ちですよ』 スタッフに導かれ あたしは意を決し 試着室を後にした。 チャペルの前に着くと 正装に扮した 見慣れぬ父の姿があった。 「…パ」 思わずいつもの呼び方で 呼びそうになり 「…っ、お父様」 慌てて口調を正す。 今日は そう今日『くらい』は 世界で一番 親孝行の出来る娘で居たいのだ。 けれど 『あぁ…』 返ってきたのはその一言。 (…?) 何故だろう いつもなら真っ直ぐ あたしを見てくれるハズの父が こちらをチラリとも見ようとしない。 昔から鈍感なあたしは それがいわゆる ¨照れ隠し¨とも知らずに ただ頭を捻るばかりであった。 『お父様、花婿様が待っておられます』 『…はい』 『お父様の腕に手を』 「あ、はいっ」 言われて思い出したように あたしは父の腕に手を絡めた。 スタッフが 厳かな造りの扉を 静かに開け放った。 パチパチパチパチ チャペルの中には 数人のスタッフと めかしこんだ母 それから… 『!!』 驚いたような顔をして こちらを見つめる一人の少年 いやこの場合は 男性と言う表現の方が しっくりくるだろうか ―が、居るだけだった。
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