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(…?)
ここでもあたしは
奇妙な感じを
覚えずには居られなかった。
『新婦、入場ー』
パチパチパチパチ
さっきより一際大きくなった拍手が
あたしと父を迎えてくれた。
父がゆっくり
踏みしめるかのように
歩を進める。
すかさずあたしもそれに倣って
一歩ずつ敷かれた毛足の短い
鮮やかな真紅の絨毯を
滑るように歩いた。
一歩。また一歩。
着実に新郎に、
一洋に向かって歩く
心なしかあたしは
緊張していた。
挙式の流れはあらかたドレスの試着をした時にスタッフから聞いていたし
チャペルだって見学済みだったのに
いまこうして歩いているここは
まるで今日初めて踏み入れた未開の地ではないかと言うくらい
新鮮さに溢れていたから
戸惑うばかりである。
やがて、父が一洋の前で止まった。
もちろんあたしもそれに合わせて止まる。
ドレスの裾が
あたしの戸惑いを現すかのように揺らめいた。
『詩織を、娘を頼む』
そう言った父の顔は
いつものあたしの大好きな父ではなく
一人の、男の顔をしていた。
『はい、お義父さん』
一洋は
父とは対象的な白の燕尾のタキシードに
その豊かな身体を包んでいた。
胸には絨毯と同じ真紅のスカーフが収められている。
ドキッ
いつもは、
ちょっとくたびれたスーツ姿しか見たことがなかったからか
不覚にも胸がときめく。
あたしは穴が空く位
一洋を見つめていた。
けれど当の一洋も
チャペルに入って来た瞬間を除き
父親同様
チラリともこちらを
見てはくれなかった。
(ムッ)
思わず眉間に皺が寄る。
(っと、イケナイ)
せっかくの晴れの日
新婦がこんな
ふてくされた表情でどうする。
気持ちを切り替えて
あたしは父から離れ
タキシードを纏った一洋の腕に
白いロンググローブに包まれた腕を絡ませた。
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