七月の花嫁

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ドキンッ くらりと目眩が襲う。 『誓いの、口付けを』 スタッフが固唾を呑むのが聞こえると 一段と胸が高鳴り 立っていることすら危うくなってきた。 一洋が、 ぎこちない仕草でベールを剥ぎ取る。 その手は確かに緊張していたけれど 壊れた物を扱うかの如く優しくて 気を抜けば卒倒してしまいそうになる。 ドキドキドキ… (だ、駄目、心臓の音、聞こえちゃ…) キスなんて もう数えきれない程しているハズなのに。 なのにどうして? どうしてこんなに 胸がドキドキするんだろう。 これじゃあまるで (ファーストキス、みたいじゃない) 徐々に近付く一洋の顔。 あれ、なんか変。 いつもなら絶対 『詩織がどんな顔してるか見たいから』 そう言って目は瞑らないのに、 何故今日に限って 目、瞑ってないの―? チュッ だからほら (目、開けたまましちゃっ、た…) パチパチパチパチ 今日一番の盛大な拍手。 今日は仮の結婚式だから 指輪の交換はない。 一洋が顔を離す。 ドキドキも冷めやらぬまま あたしは咄嗟に 客席を見つめていた。 (ママ…) 母は涙を流していた。 それだけなら、 感動するのだが。 そう。 ズキンッ ただ、それだけなら―。
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