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ここには会議などで使われる大きな机は無いが、代わりに教室用机を四つ向かい合わせにすることで生まれた一つの机がある。
机が四つに対して椅子は三つ。メリー側に二つと、私側に一つ。はて、残りの椅子は何処にやったかしら? 初めからなかった気もするけど。
向かい合ってほぼ同時に椅子へと腰を下ろす。足を組むメリーに対して、私は負けじと腕を組んだ。
「密室ね」
「そのようね」
「我らが秘封倶楽部としては、珍しく部室で部活動ということになる」
「でもあれから随分と経ったわ。もう校内で活動してもいい時間帯じゃないはずよ」
「それは時間が経っていればの話ね」
私が言いたいのは、この部室だけを世界から切り離した場合における可能性である。
パルメニデスの感覚は全て疑わしいものである、という考え方。一があるのであって多があるのではない、多があるとすれば運動は不可能。
時間とは一瞬の積み重ねで、その一瞬も更に一瞬の積み重ね。一瞬から一瞬へ移動するには無限の一瞬を通過しなければならず、そのためには無限の時間が必要なのだ。よって、有限の時間で一瞬から一瞬へ移動することは不可能ということになる。
「私達は一瞬の中で右往左往してるのかもしれない」
アキレスと亀で例えるなら、アキレスは現実、亀は私達かしら。
私達は何時まで経っても現実に追いつくことができない。
「じゃあ私の考えを言うわね――これは夢よ」
自分の鞄から缶コーヒーを取り出しながらメリーは言った。
成る程、メリーならまずそこに行き着くわけか。確かに夢なら何が起こっても不思議ではない。
紅い館を訪れたり、瞳が光る怪物に襲われたり――メリーにとってはそのくらいの非日常が日常茶飯事なのだろう。
しかし残念、
「ここには私がいる」
メリーにとって夢と現を判断する方法は私と会話すること。夢の話を私が聞いてカウンセリングするのだ。
それではメリーの夢に私が出てきたらどうするのか、という質問をしたことがある。それによると幸か不幸か今まで夢に私は出てきていないらしい。
よって私が存在するここは現実であり、今起こっていることも現実ということになる。
「会議の基本は他人の意見を否定しないことよ」
私の意見に対してそのようなことを言っていたが、すぐにメリーは「まあ、いいけど」と話題を変えた。
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