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「他に考えることがあるわよね?」
それには同意だ。夢か現、今のところは引き分けである。
決めるのは後からでいい。まずは他の小さなものに着目しなくては答えを出せない。
「何故、密室なのか……でしょ」
「That's right!」
推理小説などで犯人が犯行現場を密室にする理由は、『自殺に見せかける』、『トリックを見破らない限り他殺の線があっても捕まることがない』などの理由がある。
しかし、今回はどうだ。まさか怪奇現象が捕まることを恐れているとは思えない。自殺に見せかけるというのも何だかしっくりこない。
「相手を強制的に引き篭もらせる怪奇現象なんてあったかしら?」
私のその問いにメリーは缶コーヒーを啜りながら言った。
ところで私の分は無いのだろうか。
「呪いの部屋とかなかった? 足を踏み入れた人間は仲間同士で殺し合うやつ」
物には記憶が残る。それは部屋にも言えることだ。
だが流石に、その場所で死んだ者が呪い殺す、なんてことが起きるとは思わない。実際はその噂を使って人間が人間を殺しているに過ぎないわけで、呪いと思い込んで勝手に自滅する場合もある。
そうでなくとも霊が物体に影響を与えられるわけがない。霊はあくまで記憶だけの傍観者。観賞することはできても干渉することはできない。
何が言いたいかといえば、この線は外れということである。
それを理解した発言だったのか、メリーの言葉には真剣さを感じなかった。だから私もそれ以上、話を膨らませようとは思わない。
「メリー、ちょっとそのコーヒー貸してくれない?」
「何よ、いきなり」
「まだ試していないことがあった」
メリーから缶コーヒーを受け取ると少し重さを感じた。当たり前だ。まだ開けたばかりの缶には八割ほど中身が入っている。
「砂糖は?」
「ゼロよ」
「私は微糖くらいがいいんだけどな」
「無糖表記の缶コーヒーでも糖分くらいは入ってるわよ」
甘さとは何か。そんな哲学は今は必要ない。
私は缶コーヒーを口へと運び傾ける。
「うげぇ……」
口に広がるこの苦さ、眠気も吹っ飛びそうだわ。眠くないけど。
「それをどうするの?」
私の行動を待てなくなったのかメリーはそんなことを言ってきた。
少し待って欲しい。まだ全部飲んでない。
もう一度缶を傾けて、残りを全て飲み干した私は、先程のメリーの質問に答える。
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