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「投げてみようと思うの」
――何処に?
そんなわかりきった質問、メリーはしない。
あの闇に空き缶を投げることで試すのだ。空き缶はどうなるのか。
椅子から立ち上がった私は早速行動を開始した。再び扉を開けて、今度はより慎重に四つん這いになった。
そして手だけを外に出して空き缶を落とす。手から離れた空き缶は重力に従って落下していくのが見えた。
これで一つわかった。どうやら重力は存在するらしい。
しかし、わかったのはそれくらいだ。その後いくら待っても何の反応も返ってこなかった。
空き缶が地面に当たる音すら返ってこないとなると、飛び降りるのは得策ではない。
確認を終えて、扉を閉める。
「おかえり。で、どうだった?」
「落ちたら死ぬわ」
「だと思った」
「何で?」
「常識なの、夢の世界だと」
「まだ言うか」
「取り敢えず、暗闇は避けたほうがいい」
暗闇、か。
そういえばここは電気がついている。この部室が世界から切り取られたのだとしたら電気などきているはずがない。
だとすれば、やはりメリーの言うようにこれは夢なのかもしれない。
メリーの、ではなく私の。
「じゃあこういう場合、メリーならどうするの?」
私より夢に詳しいことは確かだ。ならば夢の世界の歩き方を教えて頂こう。
「何もしないわね」
きっぱりと、メリーは言い切った。
「何もしなければ何も起こらないし、時間が経てばいつの間にか危機は去ってる」
そうは言うが私は以前メリーが夢の世界で怪物に追いかけられた、という情報を聞いた覚えがある。とても信用できたものではない。
それにメリーは何もしないことに慣れているのかもしれないが、私は違う。何もせずにじっとしていられる程、おとなしい性格はしていない。
「封じられた秘密を解き明かすのが秘封倶楽部なのよ。私達が封じられてどうするの!」
一方メリーは、私とは対照的に鞄から本を取り出している。長期戦の構えだ。
怒ったところで仕方ないことは自分でも理解している。しかし、心の中がムズムズする。一旦、心を落ち着かせて私は話を続けた。
「もしも夢の世界だったとして、この部屋から脱出するくらい何とかならないの?」
「夢の世界だから無理なのよ」
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