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――『かごめかごめ』
現実逃避ならぬ非現実逃避でもしようというのか。
いつの間にか彼女は歌い始めていた。とても静かで心に語りかけるような歌声。
私もついついそれに耳を傾けてしまう。
――『籠の中の鳥は』
でも……、あれ?
何かが私の中で引っかかる。そうだ、メリーは本に集中している――彼女の口は動いていない。
――『いついつ出やる』
依然としてその歌声は耳に届く。
私は目を巡らすがこの部屋に音楽を流せる機械などない。ましてやメリーが携帯端末を操作して歌を流しているわけでもない。
――『夜明けの晩に』
なら一体誰が……!
この"誰か"は一体誰なんだ!?
――『鶴と亀と滑った』
突如として極寒の地に放り込まれたかのような冷たさが体を襲う。手も痺れてきて、満足に動かすことができない。鼻で呼吸をすることが困難になり、いつしか息を荒げていた。
堪らず私は立ち上がる。その際、勢い良く倒れたであろう椅子の心配などしない。
そんな場合ではない。全てを無視して背後を――扉を見る。世界がスローモーションのようにゆっくりと動いている。
私の目的はただ一つ。そこに誰がいるのかを確認すること。
この歌が終まる前に……!
――『後ろの正面だあれ?』
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