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――部室に人の姿はなかった。
昨日ぶりの部室は私がやってきたことにより漸く部室として機能し始める。そして私がこの椅子に座ることにより、止まっていた時間は少しだけ動き出す。
いつも遅刻してくる友人の所為もあり、私はこの感覚を度々味わっている。
「是非とも蓮子にもこの感覚を味わってもらいたいものだわ」
そんな言葉を嫌味っぽく口にしたところで、返事をする者はなく、すぐに沈黙へと変化する。
――やはり私だけでは不完全ね。
アナログ式の時計で例えると私は短針かしら。その隣で蓮子が走り回っているの。滑稽ね。
汗をかきながら忙しなく走り続ける蓮子を想像して、少しだけ笑ってしまった。
「さて」
そう言って私は本を開いた。電子書籍は目が痛くなるから私はこちらの方が好きだ。
茜色の部室で一定のペースを保ちならがページをめくる。
――ぺらり、
――ぺらり、
――ぺらり。
そんなことをしている間に時間が過ぎ、残りのページも少なくなり始めた頃。
「それにしても――」
誰に聞かせるわけでもなく、ポツリとこぼれたその呟きもまた茜色の世界へと溶けていく。
本を読んでいるとついつい『自分の世界』というものを創り出してしまう。
――私の世界。
――夢の世界。
目蓋の裏こそが私の捜し求めている世界なのかもしれない。
しかし夢はいつか覚める。永遠ではない。
そこで少し考えた。
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