待つ者、待たせる者

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「――死ぬ時はどうかしら?」  死んでも脳には数十分の間、電気信号が残るという。そしてその信号で私達は最後の夢を見ることができる。  ――記憶を元に作られた永遠とも感じる夢を。 「でもやっぱり死ぬのは嫌だわ」  私は自問自答を繰り返す。 「なら起きている時に見る夢はどう?」  寝ている時に見る夢が記憶なら、起きている時に見る夢は希望である。  つまりは過去と未来。  そうね、こっちの方がいいかもね。あとで蓮子にも教えてあげないと。  そこでパタンと本を閉じる。同時に大きなあくびが出た。  他に人がいないことを十分に理解しているはずなのに、無意識に手に持った本で口元を隠してしまった。  続けてポケットから出したハンカチで涙を拭きとる作業に入る。 「あっ、そういえば――」  と、 「蓮子にはまだ訊いてなかったわね」  蓮子には不思議な能力がある。  星を見て時間が分かり、月を見て場所が分かる能力。気持ち悪い能力だけど、『私は、此処にいる』ってはっきり理解できるなんて、少し羨ましいわ。  ところで、あの能力って夢の中でも使えるのかしら?  いいえ、蓮子なら使えるはず。きっと夢でも現でも自分の居場所が分かるのね。  少し強引に私はそう決め付けた。  まあ、どちらも星と月が見れなかったら意味がないけど。  そして否定した。  だって月の夢も星の夢も意外と見ないじゃない。  私はまたそうやって強引に決め付けた。  けど、どうなのかしら? 普通の人間より空を眺める回数が多い蓮子なら、もしかしたら毎日夢に出てくるのかもしれないわね。  ――夢の星。  ――夢の月。  なんだが疲れそうだけど。  今度、聞いてみましょう。
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