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「・・・フッー……」
酒を置き、黙って奥の暖簾に引っ込んだ宿主が改めて持って来た物は二枚の燻製肉と大きな葉で包んだ肉の弁当に、酒の入った皮袋だった。
「勘違いだったがまぁ、なんだ……やる。」
何となくだが、この宿屋の親父が気に入った。
「弁当も用意してくれて悪いなサンキュー。」
「・・・・・。」
「あーそうだ、金を払うわ。」
俺は腰に下げている巾着袋から、碧色の宝石が填まった銀の指輪を取り出した。
俺の腕の中で死んだ彼女の形見だが、いずれ手放す物だ。
指輪を宿主の掌に置いた。
「・・・これは……」
宿主の袖がずり落ちる。
「つりはいらねぇ。」
決め台詞を言いながら、俺は振り向かずに宿の扉を開いて出た。
「腹もだいぶ落ち着いたし、早く船にでも乗りに行くか。」
宿から離れ、港の帆船が見える歩道を歩いていた俺は燻製肉をかじりながら今来た道を振り返った。
「・・・・・だいぶ離れたもんだな。」
今は無き故郷の思い出が頭に横切る。
「・・・ん?」
俺の歩いて来た道からどこかで見た覚えがある十人の男達が走って来た。
「ん~。」
よく見たらやっぱり宿にいた他の連中だ。
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