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山の麓へ行けば大きな街道につき、大きくて賑やかな港町にたどり着く。
いつもは旅人が大勢いて山頂まで聞こえるほどうるさい街道が今日は珍しく静かだった。
「考え直す気はないのだな?」
なので、そこまで大きくない声が嫌でも耳に入る。
リーサ山の麓にある標札の前で、長いローブを着た老人が囁くように少女に話しかけた。
山から吹く風が老人の着ている黒いローブをはためかせる。
智の光を宿す灰色の瞳が鋭く少女に突き刺さる。
時間により多くのシワが刻まれた表情は何を考えているか分からない顔で、街道に立つ少女を見つめていた。
「・・・マーシャ。」
うつむいたまま黙っている少女……マーシャは老人の声で顔を上げた。
水色の髪、レモン色の瞳。
十代後半を迎えたがまだ幼さが残るその表情は、今でも泣き出しそうな顔が貼りついている。
「決めたのです。あたしはここから旅立とうと決めたのです・・・マスター。」
震えるマーシャの言葉を老人は黙って聞いていた。
老人の何もかも見透かすような瞳があまりにも辛い。
師匠の気持ちはよくわかる。
「お前の水晶には、こうなることが分かっていたのかな?」
「・・・間違いありません。」
山の頂上でも同じことを聞かれた。
マーシャは自分が着ている旅人が好んで着ている服の裾を握りしめた。
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