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私たちはさらに上昇する。一段と明るい街の光が見えてきた。あそこに私の息子とその家族が暮らしている。
息子は、街で一緒に暮らそうと私を何度も誘った。私は誘われるたびにその温かな提案を断った。すでに出来上がった輪のなかに入っていく自信がなかった。しかし、私の身体が衰えどうしようもなくなったら世話になるしかないのだろう。どうしようもなくなる前に、そろそろ真剣に考えなくてはなるまい。老いるとは嫌なものだ。
ふと、少女が私を見つめているのに気がついた。慈しむような優しい目だ。何故か、少女を昔から知っているような気がした。この少女は私に何を伝えたいのだろう。
少女から発せられる光が緩やかに広がり、私を包み込む。これは、この優しい光は、毎晩見てきた…
「月?」
私が呟いた言葉に少女はにっこりと笑った。ああ、やはり、私は少女を昔から知っていた。少女は月そのものだ。
変わりゆく世の中で彼女は唯一変わらなかった。満ち欠けを繰り返し静かに夜を渡り続けてきた。
今、私は彼女の目線から私が生きてきた世界を眺めている。なんてちっぽけのだろう。私の世界は視界に収まってしまう。このほんの一切れに私はしがみついているのだ。
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