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地上が大きくなってきた。私たちは下降を始めていた。空中散歩は終わりのようだ。
ふわり、と私たちはもといた場所へ降り立った。しばらく離れていたせいか、地面に押し返される感覚を奇妙に感じる。
彼女の光はまだ私の身体を包んでいる。私は《愛》を全身に感じていた。
私は妻を愛した。私は子を愛した。私は孫を愛した。
私は妻に愛された。私は子に愛された。孫は…ふふ、これから大きくなるだろう。
彼女は両手で私の手を包んだ。そしてそっと離した。彼女は夜空に上昇していく。慈愛に溢れた眼差しを残して、彼女の姿はゆらめいて消えた。
今日は新月だ。星々がよく見える。明日は細い細い月が顔を出すだろう。
街に、降りてみようか。あそこだってそう遠くない。妻と暮らしてきた世界の一部だ。なに、狭い世の中、人間関係などなんとかなるさ。
時々はここに来てまた、月を眺めたいものだ。私に世界の広さと狭さを教えてくれた、彼女に。
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