202人が本棚に入れています
本棚に追加
亜麻色の長髪が暗闇の中で乱れ、流れる。桜貝のように小さい口から吐き出される息は荒い。
少女の碧眼が木々の生い茂る闇へと向けられた。
その闇の中を黒い影が過ぎった。木々の影ではない、何か、だ。それは木々の間を駆け抜ける。それは木々の枝々を飛び移る。それは、一つではない。
「チッ、数が多すぎるッ!」
少女は苦虫を噛み潰したような表情を月光に照らす。
……きたっ!
少女は横へ跳び退く。遅れて、足があったそこの土が弾けた。ムチを叩き付けたかのような音が生まれ、土に小さな裂け目が起きた。
……かまいたち。厄介ね。
空気の刃、かまいたちは暗闇の中では目視が出来ない。直接目視できないため、光の屈折からできる空気の歪みを視るしかない。
しかし、今ここには月明かりしかない。光というには弱く、雀の涙ほどでしかない。この状況では、かまいたちを目で視ることは不可能だ。
だから暗闇の中では、かまいたちが生まれる瞬間の張り詰める空気、風切りの音を手掛かりにするしかないのだ。
……せめて、どこか開けた場所に出られれば。そうすれば敵が闇に隠れることもなくなり、攻撃も避けやすくなる。
最初のコメントを投稿しよう!