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少女が向かう道を塞ぐように、否、道を埋めるように数体の影が舞い降りた。黒の影がはっきりと月光に浮かぶ。それは人形、両腕からは長い爪を生やした姿だ。
ヒトガタの四肢は異様に細い。だらりと垂らした腕と丸まった背を、ゆらりゆらり、と小さく揺らし、赤い光を二つ灯らせながら少女を待ちかまえている。
少女はその化け物の姿を目の当たりにしても、走ることを止めない。
「チッ」
舌打ちを一つ。続くのは凛とした透き通った声だ。
「そこを、どきなさい!」
疾走と共に、腰の鞘から剣を引き抜く。高い金属音が木々に吸い込まれる。
それに応えるように影が走り出し、爪を振り上げた。少女はその脇を走り抜ける。銀の一閃がスパンと小気味よい音をたてて影を葬る。
少女はヒトガタの死にゆく姿に目もくれず、駆け抜ける。宵闇の中を銀の筋が踊るように駆け抜け、影が次々と葬り去られる。
……同じ手は、通用しない!
最後の一体を斬り捨てた少女は、その場で体を回して背後へ剣を薙ぐ。と、剣が空気の刃を断ち切り、火花を散らし、暗闇に鳴き声を響かせた。
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