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夕暮れの公園、片隅に設置された木製のベンチに深く腰掛けた少女はただ呆然と風に揺れるブランコを眺めていた。
義父に先ほど叩かれた左頬を赤く腫らし、蹴られたお腹を両手で抑える。
体中あちこち痛い、それでも自然と怒りの感情は抱かなかった……ただ、なぜ自分だけがこんなにもつらい思いをしなければならないのかという疑問だけが頭中でグルグルと渦を巻いている。
両親の離婚は本当に自分にはどうしようもなかったことなのだろうか……あの時私には止めることはできなかったのか。
もし、両親の離婚がなかったのだとしたら私は人並みの幸せを感じることができたのではないか……、
それだけじゃない、母も過労死することなどなかったのではないだろうか。
殴られた痛みや叩かれた痛みが段々と身体の奥へと浸透するように胸がズキズキと痛む同時にそれは自分への嫌悪感とも罪悪感とも取れるものへと変わっていき次第に吐き気を催した。
キリキリと痛み始めた胃からこみ上げてくる液体を抑えこむように右手で口を抑えたが、それよりも早く吐瀉物は口をついて外気に触れた。ポタポタと薄汚れたワンピースに垂れたのはうす黄色い液体だけだ。それも当然だろう、固形物などあるはずがない。3日前に近所の商店街で貰ったコロッケだけが今の私を動かす動力源だ。あの時のおじさんは汚い私を見てどう思ったのだろうか……。いや、そんなことは今考えてもしょうがない。汚れた口元を袖で拭いベンチから地面へと足をつけ――――
その時、視界が暗転した。
体から重力が消えふわりとした浮遊感が体を包み込みドシャっと地面に倒れ伏した。起き上がろうにも体のどこにも力は入らない。辛うじてつなぎ止まっているこの意識も細い糸のように今にも途切れてしまいそうだ。
ふと、生前の母の優しい笑顔が頭をよぎる。
『お母さん……』
母の笑顔はどんな時も私の心を暖かくしてくれた。母と一緒ならどんなに貧しい生活も楽しかった。
なのに……なのにっ!
少し前に義母が言っていた。
私の母は、父の手を借りず私の教育費を稼ぐために働き詰めになって過労で死んだのだと。
――私がお母さんを殺した……。
自らの希望を自らの手で壊してしまった。
少女の意識はそこでプッツリと途絶えた。
*
気がついた時、そこは見知らぬ部屋の一室だった。
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