遊泳空想

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シミズから貰った葉っぱは、どこかでなくしてしまった。 そんなことを考えていると、もう着いてしまった。 横には向日葵畑が広がり、その反対側には墓地。 ずっと真っ直ぐ行けば海だ。 人が歩いて作られた一本道が通っている。 ……ん? 少し離れた所で、見知らない人が向日葵をじっと見つめている。 同い年くらいの男で、白い長袖のシャツを着ていた。 こんなところに観光なんてする人はまずいない。 だとしたら、地元出身の人になるが……婿入りでもした男だろうか。 それにしては、大きめのバックを持っている。 俺の遠慮ない視線に気付いたのか、男はこちらを振り返り、にっこりと笑った。 「背の高い向日葵だね」 男は一言そう言った。 俺は、男のほうまで歩いていき、聞いた。 「ここの人、ですか?」 「いや、違うよ」 俺より背の高い、男にしてはひょろひょろした体格だった。 「宝くじが当たってね、やってみたかった計画性のない旅行をしている途中だよ」 端正な顔立ちの男は、また微笑んだ。 「そうなんですか」 「君は、ここの会社で働いているのかな?」 「いえ、都会のほうで」 「そうかね。では、ここの出身か」 「まあ、そうですね」 男は向日葵をただ見つめる。 何を考えているのかよくわからない。 「君は何歳かい?」 「26歳、ですけど……」 「私と同じだね。親近感が湧くよ」 無邪気に笑う男。
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