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教授に関して謎が残るが、また彼とは会える気がして、そのときにでも話したいと思った。
『清水叶』
清水の墓。
名前の他にも、死んだら付けられるとかいう漢字ばっかりの言葉が並んでいる。
俺は、缶ジュースとちょっとした菓子を供える。
夏の暑さで生花はすぐやられてしまうから、造化がささって墓を彩っている。
俺以外に人はいなくて、ざわざわと木々の葉が擦れる音と遠くのほうで波の音がする。
向日葵畑は墓から随分遠い。
黄色い絨毯のようだ。
俺は手を合わせた。
シミズの言いたかったことって何だよ。
大切なことか、そうでもないのか。
どっちもあり得そうなんだよな。
でも、あまり気負いすぎてもシミズだって俺が気になるだろうから、少し気楽に考えることにする。
ただ、シミズを忘れるつもりはないから。
そう決意して目を開けた。
ひらり、と目の前を舞い落ちていく黄色い花弁。
優しく掴んだそれは向日葵だった。
『はい、これあげる』
『今さっき拾った奴じゃん』
『新鮮なうちに』
『なんでこれを?』
『だから言ったでしょ。見えないものを信じたり、大切にするのは難しいってさ』
『それは、私の気持ちとこの町の優しさを形にした紅葉。こうすれば大切にしやすいし、わかりやすいでしょ』
記憶が蘇る。
鮮やかな、黄色。
俺の手にある向日葵は、なくした紅葉と同じ色だった。
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