遊泳空想

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俺は、おばさんがいなくなるまで、ただじっと立っていた。 ちょっとした、嘘を付いた。 シュンイチのことを知らないと。 本当は……。 俺は、たらりと垂れた汗を手の甲で拭って歩き出した。 風は吹き続ける。 生温い風じゃない。からっと晴れた日に吹く、夏の風だ。 そんな夏とそんな田舎が好きだった。 「真!」 ふと、元気な声が、遠くから聞こえた。 大きく手を振りながら、走ってくるのは、スイカを抱えたTシャツと短パンのミサコだった。 「おかえりー」 ゼイゼイと息を乱しながら、ミサコはスイカを地面に置いた。 「元気だった?去年は会えなかったよねー。もう、家に寄ってってくれたっていいのに」 「いや、邪魔しちゃ悪いと思った」 「何の邪魔よ?全く、どうせめんどくさかっただけでしょ?」 わかってるんだからね。 ミサコはスイカを叩いた。 俺が苦笑すると、ミサコもニカッと笑った。 「なーんてね」 「……子供は元気か?」 「元気満々!私たちが遊んだような遊びで遊んでて、すっごい懐かしいんだー。 やっぱり、ここは最高だね。自由で素直な子に育ってくれると思う。ね?」 ミサコは、幼なじみだ。 田舎に残った、数少ない二十代。 20歳で結婚して、21歳で子供を産み、一生田舎にいようと決めたらしい。 「で、最近どうなの?彼女とかは?結婚しないの?」 「お前、母親みたいな事言うなあ……」 「だって、一児の母ですからね!」 明るく笑うミサコ。 「……どうなの?いい加減結婚しなよ。26でしょ。あ、私もか。でも私は結婚してるからー。 結婚したら戻ってきなさいよ!良い所なんだから、さ」 「……うん」 「……じゃあね。スイカ冷やさないといけないから!」 スイカを抱えてミサコは、俺が歩いてきた道を行った。
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