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結婚……。
その言葉は、ずしんと俺の胸の奥に沈んだ。
昔は、漠然と、誰かと結婚をするものだと思っていた。
しかし、今はそんな気持ちになれない。
シュンイチを思い出す。
きっとミサコは知らないんだろう。
シュンイチのおばさんも知らないようだったし、ここには何も伝わっていないらしい。
それでいい。
シュンイチだって、あんな事がここに知れ渡るのは嫌なはずだ。
ただ……おばさんには一つだけ知って欲しかった。
シュンイチは決して親不孝な奴ではないと。
実家を建て直すために、働いて働いて金を貯めていたんだ。
『おふくろが住みやすい家にしたいんだ』シュンイチはそう言っていた。
でも、その金は一瞬にしてなくなった。
結婚詐欺に遭ったんだ。
少しも残さずにシュンイチの金を奪って、女は姿を消した。
シュンイチは落ち込み、全てを諦めたような表情をしていた。
俺はなんと声をかけるべきかわからず、その姿を見ているだけだった。
しばらくして、シュンイチの行方がわからなくなった。
そして、俺は東京から名古屋に越した。
ほんの、2、3ヶ月前のことだ。
今でも、シュンイチの、家を建て直すと話した表情と、金をだまし盗られた後の表情は脳裏に焼き付いている。
俺はまた歩き出した。
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