遊泳空想

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この町を出て、5年は経った。 その間、夏の今頃には必ずここに帰ってくる。 決めているんだ、夏には帰ってくると。 俯いていた顔を上げた。 家主に先立たれた家や、町を出ていった人の家が点々と並ぶ。 去年よりも、そんな家が多い気がする。 手入れのされなくなった庭には、住んでいた人の植えた花が雑草に紛れて自由に咲いていた。 「寂しいと思うか」 ふと後ろから声をかけられて、驚き振り返った。 そこには腰を丸めて、俺を下から睨むように見る爺さんがいた。 「どうだ? 寂しいか」 爺さんは繰り返し尋ねた。 「……はい」 「なら、なぜここを出ていく?なぜここを捨てる?」 きつめの口調で言葉を放つと、爺さんは荒れた庭を眺めた。 途端に、今までの覇気が消え失せて、“おじいちゃん”へと表情が変わった。 この爺さんは、向日葵畑の……。 大きな平屋に住んでいた爺さんだ。 縁側に座って、向日葵を見ていた爺さんだ。 「なぜ、ここを出ていかないとだめなんだ……」 しわがれた声で、呟いた爺さんはそれ以上何も言わなかった。
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