1/3~前編~

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南部は孤独だった。彼は本田老人のことを堪らなく慕っていたからである。村の人々は本田老人を一目見ようものなら全力で殺そうとする。 本田老人は、彼に正しいことを教えきることができなかった。南部は心も体も強かった。だが、孤独であった。 そして齢18となる彼は、さながら悪鬼。本田老人の死後、彼は村の屈強な男たちと対峙していた。村を捨て外へ行くための彼なりの儀式であった。男たちはまるで豪雨のように四方八方から刃を振りかざした。しかし南部は至極冷静にその刃の雨を一本残らず叩き落とした。元より彼は村人に対してなんらかの特別な感情など持ち合わせていなかった。自分に群がる埃を払うように、膝を地につけた男たちへと一瞥もくれず、それと分からぬ静かな笑みを湛えて村を後にした。 本田老人が死ぬまでに彼へと与えたのは剣術の心得、そして桜という名前だけである。南部桜(ナンブサクラ)は人間を迫害するILを根絶やしにするという人生目標を得、歩き続ける。
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