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行く宛もなく歩き始め、世界の意外な広さに心挫かれるのが探検者の習い。しかし彼が迷うことなく最初に行き着いたのは、自らの目的に近付くためにこの上なく適した場所であった。
自らの古巣である村と比べて相当に大きな規模を誇るこの街には、何故かまるで活気がない。彼の来訪を歓迎するかのように半壊した教会が鐘を鳴らす。
道行く人々が身に付ける衣服は、古着などとも到底呼べない地面に引き摺るただの傷んだ布である。会話という会話もなく、彼らの目は濁っていて何者をも捉えていなかった。
「この街では何が起きているんだ?」
無粋と思いつつも彼は通行人に尋ねる。虚ろな瞳が一瞬南部に向けられるだけで、望むような答えなど返ってこない。衣服はほぼ破れ、埃で黒ずんだ身体をところどころに覗かせる薄汚い男は、南部の質問に足を止めることすらしなかった。
「不憫だな、せめてこれで布でも買って身にまとえ」
余りの衣服の粗末さに、大した持ち合わせもない南部でさえもが憐れみを覚えて施そうとするも、男は拒みも受け取りもしなかった。ただ前に現れた壁を避けるように、通行人は南部をいないものと扱うようによけて歩いていってしまった。
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