1人が本棚に入れています
本棚に追加
「やめ……て、おねが」
右手に握りしめていたモノを全力で床へと降り下ろす。鈍く身体の奥底まで広がる感触と、耳から入り込む微かな『声』。煩い。
「黙れ、黙れ、黙れ、黙れ、黙れ、黙れ、黙れ、黙れ……黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れェェ!!」
モノを引き抜いてから、また突き刺す。引き抜いて、左右に腕を降り斬りつける。抉る。削ぐ。剥ぎ取る。分断する。飛沫が飛び散り、身体に付着する。呼吸も忘れて、ただただ、目の前の『声』を切り刻む。ただ、ただ――
***
気がつけば、俺は気を失っていたらしく、肉塊の上でうつ伏せに寝ていた。身体を起こすと、何かへばりつくような感覚が身体の各部から感じられた。
その感覚は、ねっとりと身体に残り続ける。『声』の様に。『声』の――
そう意識した刹那、頭の中を『声』が駆け巡る。俺を忌み嫌う、侮蔑の籠った『声』が。
「――ッ!」
鼓動が跳ね上がり、呼吸が荒くなる。ぼんやりと映る暗闇に包まれた視野が、流転し始める。手は痙攣したかの様に震え始める。全てはいつまでも冷めない怒りから、憎しみから。
「……誰か、いるの……?」
後ろから、声が聞こえた。
最初のコメントを投稿しよう!