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“星月(セイゲツ)”という喫茶店がある。
そこは地元の学校に通う学生や児童たちがちらほらと通る、賑わっているわけでもなく寂れているわけでもない微妙な立地に店を構えている。そして別段有名な店でもなんでもなくて、広すぎずもなく隠れ家的なこじんまり感もない至ってありふれた店構えであった。
わおーん、と。
現在深夜2時。別名、丑三つ時。どこかで犬が高らかに鳴いた。
時は20XX年。こんなどこぞのSFみたいな切り出し方をしても、現状は全く変わらないわけで……。じゃあ、時代劇みたいな紋切り口調ならいいんじゃないかと思ってみるが虚しくなるだけだった。
俺は今、今までのやりくりを記録した一枚の薄っぺらい紙を前に頭を抱えて悩んでいる。それは俺にとっては生死に関わる問題であり、さらに言えば一家の問題でもあるのだが、その一緒に悩むべき家族はこの場にはいない。
「はぁ……」
途中から数えるのを止めてしまった、本日何度目かわからないため息を吐いた。
「……赤字だ」
どうも初めまして、霧島冬葉(キリシマフユハ)です。俺は喫茶店、『星月』の臨時店主を務めている。この店は祖母が開店し、母が引き継いだものだ。ちなみに父親は海外に単身赴任中だ。
そして、臨時というのも、全ては俺の自由奔放すぎる家族の所為だ。
経営者であるはずの母は「最高の茶葉を探してくるぜ!」と言って二年前に荷物を持ってどこかへ旅立った。そして残ったのは俺と姉だったのだが、姉は「最高の遊びを探してくるぜっ!」と言って一年前にどっか行った。おい待てお前遊びたいだけじゃねーかと止めようとしたが韋駄天の如く走り去りやがった。
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