ステップ0・彼の理想

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  「理想の……高校生活? どうしたの、藪から棒に」 始めに言っておこう。 この物語の語り部は俺だが、俺が主役というわけではない。 俺の目の前でキョトンとしている男こそ、この青春ストーリーの主人公……本郷 円(ほんごう まどか)である。 整った顔立ちに、成績優秀、スポーツ万能、高い声質と女っぽい名前がコンプレックスらしく、超がつくほどお人好しで、女心に死ぬほど疎く、俺の親友でもある男なのだ。 「いやさ、俺って夢も希望も持ってないような灰色人間じゃん?」 「そんなことないよ」 「うっせ。で、輝かしき未来に想いを馳せてそうな円の理想を、参考までに聞きたいワケよ」 「う~ん……」 苦笑しながらも、質問への返答を考えている円。 思案している表情すらも画になる男など、そうそういないだろう。 周りの女子もキャーキャー騒いでいらっしゃるしな。それに気付かん円も円だが。 ちなみに、今は昼休み。給食を食べ終わった俺達は、教室隅にある窓辺で他愛も無い話に花を咲かせている。 ついでに言うと、俺達は卒業を間近に控えた中学三年生……花も恥じらう青少年だったりする。 いや、恥じらわないけどな。 「ん~、具体的に考えたことなんてなかったなぁ」 「嘘付け。高校では女を取っ替え引っ替えして酒池肉林だー、とか独創的な部活を設立して一生忘れられない高校生活を送るんだー、とか……あるだろ?」 「いや、ないよ!?」 さすが主人公。ツッコミ気質は必須事項だよな。 「まぁ、冗談は置いといて。抽象的でもいいから、何か無いのか?」 円は、腕組みをして「ん~」とひとしきり唸った後、 「光太郎達と楽しく過ごせるなら、それだけでいいよ」 くせぇセリフを、サラリと言ってのけやがった。 言われたこっちが恥ずかしくなるわ。 ……あ、光太郎って俺だからな。 浦方 光太郎(うらかた こうたろう)。 これが語り部担当である俺の名前。  
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