ステップ0・彼の理想

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  「いや、何でもない」 慌てて笑顔を作る。 地味だが、作り笑顔、愛想笑いは俺の十八番だったりする。 見破られない自信もある、数少ない俺の特技。 人にも誇れないし、あまり褒められたことでもないけどな。 ……ふぅむ、しっかし。 「彼女……彼女ねぇ」 正直、円が異性に興味を持っているとは思ってなかった。 いや、ヤツも人の子だし、健全な男子だということも承知している。 だが、先刻も述べた通り、コイツはニブチンなのだ。周囲が呆れる程のニブチンなのだ。 ……大事な事なので二回言ってみた。 この三年間、円の傍で必死に好意をアピールしていた女を知っているが、今現在に至るまで、円には一切が伝わってないことは俺が一番分かっている。 その女程ではないにしても、この中学にいる女生徒や女教師も、大なり小なり円に好意を抱いているのだが、アイツはそれに応えるどころか気付いちゃいないのだ。 本人の知らないところで、馬鹿みたいな数の女性を泣かせているであろう優男、本郷 円。 そんなヤツが、彼女が出来たら良いなー、などと抜かすとは……、 「片腹痛いわ」 「いきなりどうしたの!? なんで芝居がかってるの!?」 あ、胸中の呟きが口から漏れてしまった。 こんな悪癖が俺にあるとは。  
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