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地元から出てきて今年から一人で暮らし始めたマンション。 部屋に入るとむわっと生温い空気が溢れてきて、慌てて冷房のスイッチを入れた。 「ごめんね、さっきまで友達の家にいたから冷えてなくて。 あ、冷たい飲み物入れるね、ちょっと待ってて」 暑い中、汗をかきながら歩いたのに、むしろ部屋の方が風がない分不快度指数が上がった気がして、申し訳なくなる。 慌ててキッチンに走ろうとした私を、叶流は繋いだ手を引いて止めた。 「焦んなくていいよ。 外にいても暑いんだし。 日差しが防げるだけましだって」 「うん、ごめんね、」 思わず眉尻を下げて苦笑すると、ほっぺを緩くつねられる。 「みゆの悪い癖、気にしすぎ。 変わんないね」 そんなにすぐ変わったりしないよ、と笑うと、叶流は何故か嬉しそうに笑った。 「それより、みゆの浴衣が早く見たい。 お風呂入るんでしょう? 行ってきなよ、俺は適当にして待ってるから」 浴衣や着物を着るときは一度汗を流してから。 小さいときからまるで決まりごとのように繰り返してきた習慣だった。 一度も話したことなんてないのに分かってくれるこの距離が心地良い。 カラン、と氷の涼やかな音を聞きながら、コップにとぷとぷと注ぐのは白い液体。 叶流の好物リンゴジュース。 ちなみに朝のうちに搾って冷やしておいたもの。 それにはちみつを少し混ぜたら、叶流のお気に入りの完成。 けれど、さっき結構汗かいてたし、スポーツドリンクの方がいい? それより先にお風呂に入らないと汗が冷えて風邪引くんじゃ……。 「かなちゃーん」 「なに?」 呼ぶとひょっこりと顔を出す弟。 ふふ、なんか犬みたい。 「先シャワー浴びておいで。 その頃には部屋も冷えてるだろうし」 「なんで? みゆが先」 「風邪引くよ?」 「俺はみゆが着替えてるときに入るからいいの」 そう言いながら、りんごとはちみつのジュースに手を伸ばす。 「スポーツドリンクもあるよ」 「いらない。 そんな市販のものいつでも飲めるじゃん」 それはまるで私が搾ったことを知ってるみたいで。 まだ口つけてないくせに。 あーあ、こんな風に彼女を口説いてるのかと思うとお姉ちゃんは寂しいです。
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