月のない夜

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私が、こんなんじゃだめなのに。 私が、弟を守らなきゃいけないのに。 「……いい加減、分かってよ。 俺、もう姉ちゃんより力あるし、 もう姉ちゃんに守られなきゃいけないほど弱くもない」 押さえられた腕は、動かそうとしても、びくともしない。 背だって、私より大きいこと、知ってる。 小さいときは、暗いのが怖いと震えていたけれど、もう震えなくなったって、知ってる。 でも、弟は震えなくなっても、月のない夜、私の部屋に来ていた。 その理由なんて、知らない。 知らなくていい。 知りたくない。 「ねえ、分かる?」 私の耳元に囁く、いつもより低い声。 耳朶に湿った唇が触れて、私はびくりと身体を揺らした。 掠れた声が色っぽいとか、思ってない。 吐き出す息が、震える。 …やだ。 やめて。 聞きたくない。 弟は、私の気持ちを分かってるくせに、逃がしてはくれない。 最近の彼は、意地悪だ。 「俺だって、男だよ」 弟を見上げる私はきっと涙目。 彼は言って、私の目元に口づけた。 ――ねえ? 弟が意地悪になったのは、いつから…?
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