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「…………。」 どうやら言葉が出ないらしい。 凉は言葉を失って、ただただ写真を見つめ続ける。 「――すず? おーい……?」 声を掛けても反応がない。 心配になって、顔の前で手をひらひらと振ってみる。 「あ…。 あ、っと、ごめん」 やっと、ハッと我に返った凉が、罰が悪そうに呟く。 しかし、その頬は未だ紅潮しっぱなしだ。 「で? そのかっこいい弟君がどうしたの?」 彼女から携帯を返してももらいながら、話の軌道が最初に戻る。 ――かっこいい? 凉の彼氏の方がかっこいいと思うけど。 思わずそう雫すと、おでこを指で弾かれた。 いわゆるでこぴんだ。 「罰当たりめ」 凉は悪戯っ子のようにニッと笑う。 私は何のことか分からないまま、さっきの質問の答えを催促された。 「うん。 今日、弟が来るの」 「え、なんで?」 ずず、と氷の溶けた麦茶を飲み干す。 「見学、だって。 もうすぐ待ち合わせの時間で」 「ああ、それがこのあとの用事なんだ?」 「うん。 ごめんね、あんまりゆっくりできなくて」 携帯で時刻を確認し、支度を始める。 私の謝罪に、凉は笑って応えてくれた。 「ううん。 元はと言えば、私が突然呼び出したんだし。 間に合う?」 「大丈夫。 待ち合わせ駅だし」 そう言って笑って立ち上がると、凉も玄関まで見送りに出て来てくれた。 「それじゃあ」 「うん、また。 今度は、弟君のこともっと話してよ」 「あははは。 うん、じゃあ、ネタ集めとく」 「ネタって、あんた…」 ひとしきり二人で笑い合い、手を振って別れた。
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