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***** 「みゆ!」 駅のざわめきを突き抜けて耳に届いたその声の先に―― 見つけた。 走って傍に寄って来る人に、満面の笑みを浮かべる。 聞き慣れた、声で分かっていた。 ただ一人しか呼ばない、呼び名で分かっていた。 それでも、実際に会って確かめれることが、こんなにうれしいことだとは思わなかった。 「かなちゃんっ」 少し前に携帯画面で見た姿が、目の前にある。 色を抜いた、太陽の光を受けて金色に輝く短髪。 覗くピアス。 じゃらじゃらと鳴る腰のアクセサリー。 一見すると近寄りがたい印象を抱くが、浮かべる笑顔は人懐こく、4つのときと同じ可愛さ。 外見に似合わず、甘えん坊の弟、叶流だ。 「元気だった? 寂しくなかった? ちゃんと眠れてる?」 尋ねたのは、叶流。 ちょっと、姉ちゃんの台詞取らないでよ。 寂しがるのも、眠れなくなりそうなのも、あんたのほうでしょう。 心の中ではそう突っ込むのにそれは声にならず、私は笑いを返した。 「もう、かなちゃんったら」 ふふ、と笑う私に優しい眼差しを送って、叶流は甘えるように私の髪に指を絡ませる。 「なんで浴衣じゃないの? 俺、駅に着いたら浴衣のみゆが迎えてくれるって楽しみにしてたのに」 口では不満を言いつつも、瞳は答えを分かってるように柔らかい。 子供っぽい言い分に、私は肩をすくませた。 「どれだけ浴衣でいさせる気? 行く前から汗だくになっちゃうよ」 こんなに暑いのに、なんてことを言うのだろうか。 「まだ、祭りに行くには早いでしょう? これから着替えて出発したら、良い時間になるわ」 外だからと人目を気にして、叶流の腕を押して逃れようとすると、 その指は私のそれを絡め取った。 「じゃあ、みゆの部屋に行きたい」 無邪気に笑って先を急ごうとする叶流に、くすりと笑う。 「急がなくても大丈夫だから。 …ほら、かなちゃん。 こっち」 初めて来る土地で右も左も分からず、まるで反対方向に向かおうとする叶流の手を引いて、私は家の方に歩き出した。
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